ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン・・・。室内の空気中に漂う化学物質は、実に多種多様です。
こうした化学物質から身を守る有効な手立ては、今のところありません。生活者一人ひとりが商品に対する厳しい目をもち、抜本的な改革への流れをつくっていくことも大切となります。
MOISSは、あらゆる有害物質を出しません。それどころか、他の建材やインテリアから発生する有害物質(ホルムアルデヒド)も吸着します。住まいの高気密・高断熱を保ったまま室内の空気をきれいにする、画期的な内装材なのです。
MOISSは珪酸カルシウム水和物(トバモライト結晶)の構造に、粘土鉱物・バーミキュライト(尾鉱)を均一かつ同一方向に分散形成し、これを機能のみならずテクスチャとした内装仕上材です。このトバモライトの比表面積に多さとバーミキュライトの結晶水の総合効果により、室内湿度の調和を促して湿度のコンデンサー的な役割をはたします。
加えて特筆できるのはバーミキュライト自身の自然の力による化学吸着機能です。このバーミキュライトの結晶層間には交換性陽イオンと水分子を保持しています。
この層間に揮発性有機物質(ホルムアルデヒドなど)の有機分子を取込み、有機物質として吸着します。MOISSはバーミキュライト層間への吸脱機能を始めて建材に応用した新しい建築素材なのです。
古来より、「住宅」とはハイテクの結集体であった。気候風土に基づいて、身近で低廉なる自然素材を選定し、合理的長期使用を実現してきた。わが国では、四季を鑑み、台風と地震に対応した住宅が経験と英知によって生み出された。木材、葦、石、土といった天然素材を利用し、囲炉裏を中心に据え、料理と暖房の両面からエネルギー効率を図り、立ち上がった煙は、木材や葦を燻し、防虫効果と耐久性を生み出した。その一方で、就眠時に蓄えられた湿度は、布団から畳を通じて床下に放湿される。土壁も呼吸し、不快指数を低減させた。雨露を凌ぎながら、天災を含めた自然と共存し、快適空間を創造する工夫が細部に至るまで合理的に張り巡らされていたのである。自然と共生する事によって、そのエネルギーを合理的に利用するしたたかさは、科学的であり、示唆に富んでいる。
しかし近代に入り、人工密集による延焼防止の為、不燃性建材へ移行し、空調による人工的な快適性の為、気密性重視が打ち出されたことによって天然資材を利用した住宅は終焉を迎えたが、これらには刮目すべき科学性が潜んでいた。
現代の住宅は、不燃・耐久性は元より、プライベート重視による遮音性やエネルギー効率に基づく高気密・高断熱性が重要視され、内部はより密閉型に移行している。このシールド型住環境では、空調による空気循環が原則となっているが、この一見合理的推移が予想を越えた事態を引き起こしたのである。一旦、揮発性ガスの様な有害物質が空気汚染すれば、そのまま室内を循環して体を蝕み続ける。また、空気移動を遮断したことで、裏面に結露が発生しカビを増殖させる要因となってしまった。
一般的空調では加湿コントロールできない為、瞬く間に過乾燥状態を引き起こしノドを痛めてインフルエンザになったり静電気を異常発生させてしまう。一方、加湿器は部屋全体を均等加湿できずに、むしろ窓際の結露を誘発させてしまう。更に、内装仕上げ材としてクロスや接着材が多用されたためホルムアルデヒド等の揮発性有機ガスによるシックハウス症候群や化学物質過敏症を引き起こしてきた。しかしながら、空調による快適温度に慣れ親しんだ現代人にとって、又エネルギーの有効利用といったコスト及び社会正義からして、高気密・高断熱化は動かしがたいテーマとなっている。
つまり、開発の原点はここにあった。住居内部を高気密・高断熱として維持させながら、室外部環境との共生、つまり、温熱エネルギーの平衡を図る素材、つまり熱エネルギーは保存させ、湿度を移動させる素材開発を企図すべきという点に終始した。
加えて、生活を彩る意匠性を持ち、一般人にも容易な価格体系で耐久性や強度をも兼ね備え、使い勝手のいい、健康的な素材でありながら、より消費者を納得させる商品開発を目指した。これが、「MOISS」の誕生の発想である。
居住生活の中で体がどれくらい病んでいるかということはなかなか判断がつきません。単に頭が重いといっても、その原因を見きわめるのは困難です。シックハウスも、個人差によって同条件でも異なる症状が出てしまいます。これまで蓄積された化学物質の量、また日々の生活環境で接する化学物質の量や時間、状況などと相関関係にあるといえるでしょう。
生活環境の変化に伴う生活時間の増加、仕事でのストレス、環境破壊や空気汚染、水道水など、知らない間に身体をむしばむ原因は、実に多様です。加えて、日々の食事にはさまざまな添加物、加工食品が用いられるなど、化学物質が体内に蓄積される状況におかれています。さらに、ビタミンやミネラルの不足からくる生理的要因から起こるさまざまな問題など、心身ともに汚染は進行すると考えられます。個人差はあるという前提はありますが、取り巻く環境全域に少なからず汚染物質があふれているのは間違いありません。それは、近年いわれはじめている人間本来のもつ機能力や順応力、自然治癒力、免疫力などの低下と大きく関係していると思われます。いずれにしても現実にこれらと戦うには睡眠をとり、基礎体力を維持し、健全な精神と肉体を日常より意識しなくてはなりません。それが最小限個人でできることなのかもしれません。
昨今、住宅雑誌を見ると古材を使用した住宅、店舗などが紹介される特集を数多く目にします。新しいものに対する反作用ともいえますが、このブームの裏にも生活における自然への希求というものが反映されているように思えます。
例えば、近年、さまざまな室内環境汚染等の問題から漆喰や土壁、そして古材をリサイクルして再利用する動きが盛んです。
新築でありながら、古民家の軸組を構造材として再利用し、現在調達できる自然素材を組み合わせて造るという、いわば現代版・古民家住宅。この住宅には自然素材のもつ自然力の活用、考え方が見直されています。天然木材をふんだんに使用し、藁や土で覆った土壁には、高温多湿のわが国の立地環境に順応すると同時に、何より地域特有の素材のかたちやデザインが刻み込まれるという点が魅力的です。地方に出向き、どこの地の新しい住宅を見ても、どれもが規格化された同じ住宅だったら、それはとても悲しいことです。在来構法にはどこか懐かしい、人のこころを引きつける何かがあるように思えます。天然木材には「視覚、触覚、臭覚、聴覚」それぞれの側面から、心地よい感じを人に与え、健康の維持・増進に寄与することが経験的に知られています。その理由のひとつとして、人と木材がともに過ごしてきた長い歴史に着目する必要があるでしょう。人と自然環境との関係について、日本生理人類学会の会長・佐藤方彦氏は著書のなかで木材の心身への効用を次のように記しています。「人間が人間になってからの500万年の間、人間が生活してきたのは自然環境でした。人間の歴史の中で都市が出現したのはごく最近のことです。(中略)太古の野生の森や草原に生きた脳をもって、私たちは今日、都市生活を営んでいるのです。人間の生理機能は、脳も、神経系の肺も消化器も肝臓も感覚系も、すべて自然環境のもとで進化し、自然環境用につくられています。」まさにこの話こそが人と自然、人と木材の関係を論じるうえで、根本となる考え方といえるのではないでしょうか。
木材から香りを精油という状態で抽出し、日常で使用されたりします。ヒノキ材油やヒバ材油などが知られています。一般に木材には心を落ち着かせる独特の香りがあります。木の匂いはテルペン類と呼ばれる成分が主成分で、その中でも揮発性が高いモノテルペンやセスキテルペンが中心となっています。家具などの木質製品や天然木からは心に安らぎを与える効果があるということは、遺伝子レベルでの経験的な情報だと考えることもできます。しかしながら、現況、科学的に検証するには至っていません。人の気分を定量的に測定する手法が確立していない現在ではいたしかたありませんが、少しずつ研究データが集約されつつあるといいます。今後の研究の方向に注目したいものです。
<出典>
有馬孝禮「木材は環境と健康を守る」産調出版、平成10年
古民家再生工房「古民家再生術」住まいの図書館出版局、平成7年